東洋医学臨床論

15)便秘と下痢 についてのまとめ/東洋医学臨床論

1.便秘(大便秘結)

便秘は5つの代表的なタイプに分かれます。
実証だと「熱秘」という胃腸の熱によるものと、「気秘」という肝鬱によるものの2つに分けられます。
虚証の場合は、「気虚秘」「血虚秘」とそれぞれ気虚と血虚が原因になるものと、「冷秘」という腎陽虚が原因のものの3つに分けられます。

※血虚秘では兎糞状便がみられます。

便秘の治療基本穴

  • 天枢(大腸の募穴)
  • 大腸兪(大腸の背部兪穴)
  • 上巨虚(大腸の下合穴)
  • 支溝(三焦の経火穴)
  • 照海(八脈交会穴)

 

1)熱秘(胃腸の熱)

【症状】
  • 大便秘結、排便困難、腹部膨満(拒按)
  • 顔面紅潮、身熱
  • 口臭、口渇
  • 心煩
【舌脈】
  • 舌:紅
  • 舌苔:黄燥
  • 脈:滑実
【治療穴】
  • 合谷(大腸の原穴)
  • 曲池(大腸の合土穴)
  • 内庭(胃の榮水穴)

 

2)肝鬱(気秘)

【症状】
  • 大便秘結
  • 便はそれほど乾燥していない
  • 腹部から両脇にかけての脹痛
  • 口苦、噯気(げっぷ)
  • 目眩
【舌脈】
  • 舌:紅
  • 脈:弦
【治療穴】
  • 太衝(肝の原穴、兪土穴)
  • 中脘(胃の募穴、八会穴の腑会)

 

 

2.下痢(泄瀉)

「泄」とは大便が希薄で出たり止まったりするもの。
「瀉」とは、みずが注ぐように一直線に下るものを言います。

泄瀉は実証である「外邪」「傷食」「肝鬱」、虚証である「脾胃虚弱」「腎陽虚」という5つに分類されます。

※腎陽虚では五更泄瀉(明け方のみにみられる下痢)がみられます。

外邪と傷食による下痢は「暴泄(急性)」となり、脾胃虚弱と腎陽虚、肝鬱による下痢は「久泄(慢性)」になります。

 

下痢治療の基本穴

  • 神闕
  • 天枢(大腸の募穴)
  • 大腸兪(大腸の背部兪穴)
  • 上巨虚(大腸の下合穴)
  • 三陰交

 

1)外邪

下痢には寒、湿、暑、熱が影響するが、特に湿邪によるものが多いとされています。
湿邪が最も脾に影響を及ぼすので、それによって脾気が抑止されて運化の失調により下痢となります。

①湿熱による泄瀉

湿に熱がからむと湿熱による下痢になります。

【症状】
  • 急迫した下痢
  • 腹痛と下痢が交互に起こる(あるいはすっきりしない)
  • 悪臭を伴う
  • 肛門の灼熱感、煩熱
  • 口渇
  • 尿少
【舌脈】
  • 舌苔:黄膩
  • 脈:濡数
    ※濡脈:浮位で触れ、脈幅が小さく柔らかい。少し按じると絶えそう。湿証や虚証でみられる。

 

②寒湿による泄瀉

湿に寒がからむと寒湿による下痢になります。

【症状】
  • 便の質が希薄で水様
  • 腹痛
  • 腸鳴
  • 食欲不振
【舌脈】
  • 舌苔:白膩
  • 脈:濡遅

 

2)傷食による下痢

暴飲暴食や傷んだものを食べたことが原因でおこる下痢

【症状】
  • 腹痛腸鳴
  • 糞便が腐った卵のような臭い
  • 泄瀉後は腹痛が軽減
  • 腹部脹満、食欲不振
  • 酸臭をともなう噯気
【舌脈】
  • 舌苔:厚膩
  • 脈:滑
    ※滑脈:脈の流れがなめらかで、円滑に指に触れる。痰湿や食滞でみられる。

3)肝鬱による泄瀉

肝鬱気滞によって、それが脾に影響して下痢になるもの

【症状】
  • 胸脇脹悶、腹中雷鳴
  • 失気が頻発する
【舌脈】
  • 脈:弦
    ※脈弦:肝胆病、痛証

4)脾胃虚弱による泄瀉

脾胃が衰えると水穀の受納と精微の運化ができなくなるので、それによって清濁の分別ができなくなることで泄瀉になる。
※水穀の精微:飲食物の栄養

【症状】

泄になったり、瀉になったりを長期間繰り返します。

【舌脈】
  • 舌:淡
  • 脈:細弱

 

5)腎陽虚

腎陽が虚してしまい、脾陽が温煦されないことで、運化機能が低下して泄瀉になる。

【症状】
  • 五更泄瀉
  • 腰部、腹部の冷え、四肢の冷え
  • 腰膝酸軟
【舌脈】
  • 舌:淡
  • 脈:沈遅