東洋医学概論

第5章 弁証論治 第1節 弁証 Ⅰ.弁証方法  2)気血津液弁証

生理物質や陰陽の失調によって生じる病証を判別する方法です。
ここで判別された病態は証の核となるものなので、病位が不確定だとしても病態が把握できていれば治療が可能となります。

A.気の病証

(1)気虚・気陥・気脱

これらは気の虚証にあたります。
気の化生や供給が不足してひどく消耗したために気の量が減少し、各種の作用が機能しなくなった状態です。
「気陥」とは、気虚と上昇不能の2つの病機が同時に発生したものです。
「気脱」とは、気虚が極限まで悪化した状態をさします。

①気虚

身体の機能低下によって現れます。
長期にわたって病気や過労、高齢などによって身体の気が虚することによって起こります。

〈証候分析〉

原気不足によって…
「息切れ」「無力感」

気虚のために清陽が昇らず、頭や目を温養できないことで…
「頭暈」「眩暈」

衛気が虚してしまい肌表(腠理)を引き締めることができずに…
「自汗」

気虚によって血の推動作用が低下してしまうことで…
「舌質淡」「舌苔白」
「脈虚無力」

②気陥

気が虚して昇挙無力となったため、気が下陥して起こるものです。
気虚が進行して生じたり、過労や出産による気の消耗によって起こります。

〈証候分析〉

気虚によって…
「息切れ」「倦怠感」

気虚によって静陽が昇らなくなることで…
「めまい」

気虚によって血の推動作用が低下して…
「舌淡」「脈弱」

気虚によって臓器を昇挙する力が低下して…
「腹部の墜脹感」「脱肛」「臓器の下垂」

 

(2)気鬱・気滞・気逆

気の実証です。
「気鬱」とは、軽度な気の循環障害が起こった状態
「気滞」とは、気が滞った状態
「気逆」とは、気の上昇運動が過度になって下行できなくなり逆上してしまった状態

③気滞

気鬱と同じような症状です。
情志の異常な変化、飲食の不摂生、外邪の感受などによって、人体の特定の部位や所定の臓腑の気機が滞り、運行不良となって起こります。

〈証候分析〉

気が滞ることで…
軽度であれば「脹悶」、重度で「疼痛」

④気逆

気機の昇降失調によって、気が上逆して起こる症状です。
一般的には肺・胃・肝の気の上逆を指すことが多いです。

〈証候分析〉

肺気の宣発粛降が失調し上逆するために…
「咳嗽」「喘息」

胃気の和降がうまくできなくなることで…
「吃逆」「噯気」「嘔吐」

肝の昇発作用が過度に亢進するために…
「頭痛」「眩暈」「昏厥」「吐血」
※昏厥とは気絶することです

 

B.血の病証

①血虚

失血過多や脾胃虚弱によって化生不足や、七情過度による陰血損耗によって起こります。

〈証候分析〉

頭部や目を滋養できなかったり、顔面部の血が不足して…
「顔面蒼白」「頭暈」「目渋」「唇色淡白」

心を滋養できなくなって…
「心悸」「不眠」

経脈を滋養できなくなり…
「手足のしびれ」

血が舌や脈に充足しないため…
「舌質淡」「脈細無力」

②血瘀

血行が停滞するために生じる証候です。
気虚によって血行が鬱滞したり、寒凝や気滞によって血流が阻害されたりすることで起こります。

〈証候分析〉

瘀血が原因で経脈の通りが悪くなり、気血の運行が悪くなることで…
「刺痛(固定痛)」

疼痛部位を按圧すると気血の鬱滞がいっそうひどくなり…
「拒按」

皮膚や粘膜の血の鬱滞のため…
「顔色、唇、皮膚などの色調の変化」

瘀血が胞中に阻滞して…
「月経の出血量が少なく血塊を伴う」

瘀血によって…
「舌質紫暗」「濇脈」

 

③血熱証

臓腑の火熱が盛んとなって、血に影響し生じる証候。
煩労、飲酒過度、発作的な怒りによる肝の損傷などから火熱を生じます。

〈証候分析〉

臓腑の火熱が血分に内迫し、各所の血絡を損傷して生じて…
「各種出血」

血熱のため、気血が脈絡に充ちて、血流が盛んになり…
「舌質紅絳」「脈弦数有力」

 

④血寒証

局部の脈絡が寒凝気滞のため、血行障害を引き起こし現れる証候です。
寒邪の感受や陰寒の内盛によって、血脈の運行が障害されて起こります。

〈証候分析〉

寒邪の侵襲によって脈動が収束し、気血が手足に行き届かなくなるために…
「手足の疼痛」「皮膚は紫暗色」

温めると血行が良くなり、冷やすと悪くなって…
「冷えを嫌がり、温めると疼痛が軽減」

月経時に寒冷刺激を受けて、寒が血脈に影響するために…
「小腹冷痛」

陽気が阻害されて皮膚を温煦できないために…
「四肢の冷え」

寒が胞宮に作用し、経穴がその影響を受けて…
「月経色紫暗、血塊がある」

寒が経脈に作用し、舌への気血の運行を阻害して…
「舌質淡暗」

寒業血瘀によって…
「脈沈遅濇」

 

C.津液の病証

①津液不足

津液の不足や滋潤作用が減退した病証です。
飲食物の摂食不足・過剰な発汗、下痢や熱邪・内熱によって津液が損傷され…

〈証候分析〉

津液の不足によって…
「口や咽喉の乾き」「皮膚や髪の乾燥」「尿量の減少」

 

②津液の停滞

津液は停滞や凝集によって、人体にとって不用な物質になります。
形態によって「湿」「水」「飲」「痰」と呼ばれるが、明確には区別できません。

〈臨床所見〉

体のあらゆる部位で滞り、気血の運行を阻害します。

 

D.精の病証

①精虚

精が不足した病態です。
腎に貯蔵されている精は腎精といい、精虚と腎精不足は同義です。

〈証候分析〉

先天的な不足で、成長や発育に必要な物質が足りなくなるので…
「成長不良」「発育不良」

精の不足によって気血の量が減少し、抵抗力が落ちるので…
「虚弱体質」「易館冒」

精は生殖機能をつかさどっているため…
「不妊症」「経閉」「性欲減退」

骨を滋養することができないため…
「腰膝酸軟」「早老」

髄海を滋養することができないため…
「耳鳴」「難聴」「眩暈」「脱毛」「健忘」

精が気血に化生する量が減少し…
「虚労」「脈弱」

 

E.陰の病証

①陰虚(虚熱)

陰液の不足によって、熱証を呈する病証。
血虚、津液不足、精虚の症状を伴うことが多くなります。

〈証候分析〉

熱が上部や体表に現れて…
「ほてり」「のぼせ」

虚熱が部分的に現れるて…
「手足心熱」「五心煩熱」

虚熱が旺盛になると、体内の津液が気化されて…
「盗汗(寝汗)」

虚熱は実熱に比べて熱量が少ないために…
「頬部紅潮」

内熱が紅い色となって…
「舌質紅」

津液が苔の盛衰を反映するために…
「舌苔少」

内熱により推動作用は亢進し、陰液が減少することで血脈が不足し…
「脈細数」

 

②陰盛(実寒)

寒邪や湿邪を感受したり、冷えの性質をもった飲食物を過食することによって起きます。

〈証候分析〉

寒邪が旺盛になって、陽気が損傷すると…
「寒がり」「四肢の冷え」

寒邪によって陽気が不足し、気血を顔面まで運ぶことができずに…
「顔面蒼白」

寒邪によって気血が滞るために…
「疼痛」

寒邪によって陽気が損傷されると、水分代謝に影響を与え下痢を起こして…
「下痢」「小便清長」

寒邪には凝滞性・収引性があるので…
「脈緊」「脈遅」

 

F.陽の病証

①陽虚(虚寒)

陽気の不足により、組織や器官を温めることができなくなるために起こります。
気虚から波及するために、気虚の証候を伴うことが多いです。

〈証候分析〉

寒の症状で…
「寒がり」「四肢の冷え」「顔面蒼白」「腹痛」「下痢」「小便清長」「遅脈」
気虚の症状で…
「自汗」「精神疲労」「倦怠感」「食欲不振」「息切れ」「脈弱」

 

②陽盛(実熱)

熱邪などの陽邪を感受したり、熱の性質を持った飲食物の過食、臓腑機能が亢進し生じる内熱などによって起きます。

〈証候分析〉

身熱が現れ、熱が上昇するために…
「顔面紅潮」

熱が津液を損傷するために…
「口渇」

熱が旺盛なために…
「冷飲を好む」

熱が炎上し、心神に影響を及ぼすために…
「煩躁」「多言」

熱により津液が損傷し、小便の量が減少して…
「小便短赤」

熱によって津液が損傷し、大便が硬く乾燥し…
「便秘」

熱が旺盛になると…
「舌質紅」「舌苔黄」「脈数」