1.九刺(九変に応じる刺法)
古代九鍼のうち、いくつかの鍼を用いる九種の刺法で、刺鍼・取穴の原則が定められています。
1)輸刺(ゆし)
五臓の病の時に、毫鍼や員鍼、鍉鍼などで手足の末端近くの輸穴(榮・兪・原穴)を刺します。
2)遠道刺(えんどうし)
病が上(頭面、頸部、体幹、六腑)にあるとき、毫鍼で膝の周囲はその下にある穴(主に下合穴)を刺します。
3)経刺(けいし)
経脈が病んだ時に、毫鍼で経脈上の反応(結絡・経分)にやや深く刺します
4)絡刺(らくし)
絡脈が病んだ時、毫鍼や三稜鍼で血絡を浅く指して瀉します。
絡脈に刺すので絡刺と言います。
5)分刺(ふんし)
毫鍼・員鍼で分肉の間を刺します。分肉に刺すので分刺といいます。
6)大瀉刺(だいしゃし)
大膿を鈹鍼で瀉します。大いに膿血を瀉すので大瀉刺といいます。
7)毛刺(もうし)
皮膚の浮痹(ふひ)のとき、鑱鍼や毫鍼で皮膚のごく浅いところを刺します。皮毛に刺すので毛刺と言います。
8)巨刺(こし)
巨はモノサシのことで、全体(左右)のバランス調整の意味です。
経脈が病んでいるとき、左側に症状があれば右側を、右側にあれば左側に刺します。このやり方で経刺を行います。
9)焠刺(さいし)
焠は焼き鍼のことを言います。燔鍼で痹、特に筋痹(筋が引きつって痛い、痙攣する)時に、圧痛点を治療点として刺します。
2.十二刺(十二経に応じる刺法)
主として毫鍼を用いる12種の刺法で、それらが適応する病証について定められています。
1)偶刺(ぐうし)
心痹(胸部の痛み、強い動悸を感じたりする)のとき、背部と胸部の圧痛・反応点を探り、前後から一鍼ずつ刺す。
前後で2本なので偶刺と言います。
2)報刺(ほうし)
「報」は繰り返すという意味です。痛むところがあちこち動いて定まらないとき、痛むところを手で追いかけて次々と繰り返し刺します。
痛むところを追う際に、刺した鍼はそのままにします。
3)恢刺(かいし)
「恢」は大きい、ゆるいという意味です。筋痹で筋がひきつるとき、筋に真っ直ぐ刺入し、のり鍼を左右前後に方向を変えたり揺り動かしたりして筋をゆるめます。
4)斉刺(せいし)
「斉」はひとしくそろうという意味です。寒気・痹気(冷えや痛み)の範囲が狭く深部にある時、その中心に一鍼、すぐ両側にそれぞれ一鍼ずつ一直線に並ぶように刺します。
一直線上に鍼が揃うので斉刺と言います。
※3本刺すので三鍼とも言います。
5)揚刺(ようし)
寒気の範囲が博く大きいとき、その中心に1鍼刺し、四隅から中心に向かって水平に近い角度でこの寒気を浮かすように刺します。
寒気を浮揚させるので揚刺と言います。
6)直鍼刺(ちょくしんし)
寒気の浅い時、皮膚をつまんで引っ張りこれを皮膚に対して水平に刺します。
直ちに刺すので直鍼刺と言います
7)輸刺(ゆし)
気の働きが盛んで熱のある時、真っ直ぐに深く刺し、真っ直ぐ抜いて熱を瀉します。
取穴は少なくします。輸は輸送の意で、深部の熱を外に運ぶので輸刺と言います。
8)短刺(たんし)
骨痹(骨髄が損なわれ、骨痛み体重く、四肢が重く挙げにくい)の時、鍼を揺すりながら深く刺して骨に至らせ、鍼で骨を上下にこするようにします。
「短」は急迫の意味で、頻々とゆすって骨に迫るので短刺と言います。
9)浮刺(ふし)
肌肉がひきつって冷える時、その傍らに斜めに刺してこれを浮かすようにします。
10)陰刺(いんし)
寒厥(足先から冷感が膝や腰まで上り、容易に下痢をする)のとき、左右の内果の後ろの穴(太渓)に同時に刺入します。
寒厥は、陰陽では陰証の代表的症候を呈するもので、陰証に刺すので陰刺と言います。
11)傍鍼刺(ぼうしんし)
経過が長く同じ部位の痹のとき、痛みの中心に一鍼、そのすぐ傍らに一鍼刺す。
12)贊刺(さんし)
癰腫のとき、毫鍼・鋒鍼で何度も繰り返し浅く刺し出血させる。
3.五刺(五臓に応じる刺法)
1)関刺(かんし)
肝、筋
関節部に刺すので関刺
2)豹文刺(ひょうもんし)
心、血脈
出血の様子が豹の毛皮の紋のようなので、豹文刺と言います。
3)合谷刺(ごうこくし)
脾、肌肉
使用する3本の鍼が谷間の深いところのようなので合谷刺と言います。
4)半刺(はんし)
肺、皮
刺したかどうか分からないくらい浅く刺すので半刺と言います。
5)輸刺(ゆし)
腎、骨
「輸」は至るという意味で、深く骨に至るので輸刺と言います。