生理学

運動の調節 まとめ

a.脊髄レベルでの調節

(1)伸張反射

「膝蓋腱反射」や「アキレス腱反射」などがこれに当たります。

腱の受容器は直接関与しません。
腱を叩くことによって、筋紡錘が刺激されて骨格筋が収縮する反射です。

伸張反射は唯一の「単シナプス反射」です。

 

①伸張反射のメカニズム

・腱を叩くと筋肉が引っ張られ、それによって筋紡錘が収縮する。
・筋紡錘のⅠa群求心性線維の興奮が後根を伝わり脊髄に入る。
・1つのシナプスを介して、脊髄前角にあるα運動ニューロンを興奮させる。
・α運動ニューロンの活動が軸索を通って錘外筋繊維に伝わる。
・錘外筋繊維が収縮する。

②伸張反射における腱受容器の役割

伸張反射が起こり筋(錘外筋)が収縮すると、その筋につながる腱が伸展されるので腱受容器が興奮します。
その興奮がⅠb群求心性線維によって脊髄内に伝えられ、脊髄内で1つの抑制介在性ニューロンを介してその筋のα運動ニューロンの活動を抑制します。
この抑制を「自原抑制」と呼び、これによって筋が過度に伸張反射を起こすことを防ぎます。

③随意運動と伸張反射

随意運動の際、α−γ連関によって錘外筋繊維と錘内筋繊維は同時に収縮したり弛緩したりします。
この際に働く、
「γ運動ニューロン」⇒「筋紡錘Ⅰa群求心性線維」⇒「α運動ニューロン」
がループすることをγループと言います。

 

(2)拮抗抑制

多くの関節は、屈筋と伸筋が相反する作用を行う。
その際に、関節を動かす筋肉を「主動筋(アゴニスト)」と呼び、拮抗する筋肉を「拮抗筋(アンタゴニスト)」と言います。

ある筋肉が収縮すると、抑制介在性ニューロンが働くことによって拮抗筋の緊張が減弱します。

 

(3)伸張反射と誘発筋電図

伸張反射の誘発筋電図は「H波」と呼ばれ、脊髄反射路の診断に用いられます。
H波はⅠa群求心性線維が刺激され、中枢神経内でシナプスを1個介して反射的にα運動ニューロンが興奮することでH波が記録されます。

刺激を高めていくと、潜時の短い「M波」も見られるようになります。M波は遠心性神経が直接刺激されるものなので中枢神経は関与しません。
さらに刺激を高めていくと、M波も合わせて大きくなりH波が小さくなっていき、そのうち消失します。

 

(4)屈曲反射

足に熱や痛みの刺激を与えると、同じ側の足全体を引っ込めるという反射を屈曲反射と言います。
これは侵害性刺激から足を反射的に遠ざけようとする防御的役割を持ちます。

屈曲反射は伸張反射や拮抗抑制などと比べると、細い求心性線維によって起こります。

 

(5)交叉性伸展反射

屈曲反射を起こすような強い刺激が加えられると、反対側の肢が伸展する反射を交叉性伸展反射と言います。
この反射は屈曲反射を起こす求心性線維が、脊髄の反対側に達して反対側の伸筋のα運動ニューロンを興奮させ、屈筋のα運動ニューロンを抑制して起こります。

 

(6)皮膚反射

-腹壁反射-

腹部の皮膚を軽く刺激すると腹壁筋が反射性に収縮

 

-挙睾筋反射-

大腿の内側の皮膚を軽く擦ると挙睾筋が反射性に収縮

 

-横隔膜反射-

胸部の下方の皮膚を刺激すると反射性に横隔膜が収縮

 

(7)長脊髄反射

これまでに記した伸張反射や屈曲反射、皮膚反射などの脊髄反射は「脊髄分節反射」と呼ばれ、入力場所と出力場所が近いものでした。
これに対して、四肢間反射やひっかき反射は入力場所と出力場所が遠くなっているおり、これを「長脊髄反射」と言います。

〜四肢間反射〜

除脳動物(中脳と橋の間で脳幹を切断した動物)で出現しやすい反射ですが、脊髄動物でも見られるので脊髄反射であるとされています。
具体的には、前脚で屈曲反射と交叉性伸展反射が行われ、後ろ側では対角線上にその反射が起こります。
これは歩行時の前肢と後肢のバランスに関与すると言われています。

 

〜ひっかき反射〜

慢性脊髄動物(脊髄を頸部下部で切断して2〜3ヶ月過ぎたもの)に対して、背中の皮膚を軽く擦ったりすると同側の後肢で刺激部位を繰り返しひっかくような反射をひっかき反射と言います。

 

(8)内臓ー運動反射

内蔵からの求心性神経の興奮によって筋が収縮する運動反射を内蔵-運動反射と言います。

内蔵運動反射は呼吸排尿などの調節で起こります。

 

(9)歩行リズムの発生

歩行のリズムは脊髄動物でも保たれるので、脊髄内に歩行のリズムを作る神経回路の一部があるとされています。

 

b.脳幹による調節

脳幹には脳神経の遠心路の起始核があります。

 

(1)脳神経を遠心路とする反射

①角膜反射

結膜や角膜などを刺激するとまぶたが閉じます。

1.角膜が刺激される
2.求心路:三叉神経(Ⅴ)
3.中枢:橋の顔面神経核
4.遠心路:顔面神経(Ⅶ)
5.眼輪筋の収縮

 

②開口反射

舌や口腔粘膜の刺激で、開口筋が収縮し閉口筋は抑制されることによって開口が起こります。

1.舌や口腔粘膜が刺激される
2.求心路:三叉神経(Ⅴ)のⅡ枝、Ⅲ枝
3.中枢:延髄の三叉神経核
4.遠心路:三叉神経(Ⅴ),顔面神経(Ⅶ)
5.咀嚼筋(閉口筋)に抑制をかけて、咀嚼筋(開口筋)を収縮させて開口させる。
※閉口筋は、咬筋、側頭筋、外側翼突筋(上頭)、内側翼突筋
※開口筋は、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋、外側翼突筋(下頭)

③閉口反射

③咬筋反射

下顎骨を下に向けて叩くと、閉口筋(咬筋)が収縮して口が閉じます。

1.オトガイ部を叩くと、閉口筋中の筋紡錘が引き伸ばされる
2.求心路:三叉神経(Ⅴ)
3.中枢:三叉神経中脳路核(中脳)⇒三叉神経運動路核(橋)
4.遠心路:三叉神経(Ⅴ)
5.閉口筋の収縮

 

④嚥下反射

食物が舌の後部や咽頭などに触れると食物を飲み込みます。

1.咽喉頭粘膜の知覚受容器
2.求心路:舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)
3.中枢:延髄の嚥下中枢
4.遠心路:三叉神経(Ⅴ)、迷走神経(Ⅹ)、舌下神経(Ⅻ)
5.嚥下筋群によって咽頭相から食道相までの嚥下運動が反射として行われる。
※嚥下運動は、軟口蓋の挙上、咽頭閉鎖、舌根の挙上、食道の蠕動運動。

 

⑤咳反射

気道粘膜の刺激で、咳やくしゃみが起こります。

1.気道粘膜が刺激される
2.求心路:迷走神経(Ⅹ)の感覚線維
3.中枢:入力が延髄の咳中枢、出力が上部胸髄
4.遠心路:副神経(Ⅺ)と脊髄神経
5.呼吸気筋群の収縮
※呼呼気筋には横隔膜、斜角筋、内外肋間筋、外腹斜筋、胸鎖乳突筋が使われます。

⑤くしゃみ反射

 

⑥前庭動眼反射

頭部の回転により前庭器官が刺激されると、反射性に外眼筋の運動ニューロンが反応して眼球は頭部の回転と逆方向に働きます。

1.三半規管が頭部の回転を検出します。
2.求心路:内耳神経(前庭神経)(Ⅷ)
3.中枢:延髄から橋にかけて前庭神経核、中脳の動眼神経核
4.遠心路:動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、外転神経(Ⅵ)
5.頭部の回転とは逆方向に眼球が動かすために外眼筋が働きます。
※外眼筋は、(Ⅲ)上直筋、下直筋、下斜筋、内側直筋、(Ⅳ)上斜筋、(Ⅵ)外側直筋

 

⑦瞬目反射(眼瞼閉鎖反射、眼輪筋反射)

網膜に強い光が当たったり、物が目の前に近づいて来たときに眼球を保護するために反射的にまぶたを閉じます。

1.光刺激が網膜に当たる
2.求心路:視神経(Ⅱ)
3.中枢:中脳・橋
4.遠心路:顔面神経(Ⅶ)
5.効果器:眼輪筋

 

⑧瞳孔対光反射

1.網膜に光が入る
2.求心路:視神経(Ⅱ)
3.中枢:入力(間脳の外側膝状体)、出力(中脳の動眼神経副核)
4.遠心路:動眼神経(Ⅲ)副交感線維
5.効果器:瞳孔括約筋
6.縮瞳が起こる

 

(2)除脳固縮

除脳動物(中脳と橋の間で脳幹を切断した動物)は、四肢の伸筋や頸筋などの緊張が高まって四肢を硬く伸ばし頚を立てた姿勢をとり、支えてやれば立つこともできます。この状態を除脳固縮と言います。

緊張の継続の仕組みがγループに似ているためにγ固縮とも言われています

 

(3)姿勢反射

姿勢は大脳からの指令によって随意的にも調節できますが、脳幹を中枢として反射的にも調節されています。

①緊張性頸反射

四足歩行の動物が、頭を右に捻ると左側の手足が屈曲し、右側の手足が伸展することを緊張性迷路反射と言います。
ヒトの場合、小児麻痺などの病気で見られます。また正常でも野球などのスポーツ時には見られます。

②緊張性迷路反射

四足歩行の動物が、頭を右に傾けると右手が伸展し、左足が屈曲することを緊張性迷路反射と言います。

③立ち直り反射

除脳動物(中脳と橋の間で脳幹を切断)は、押し倒すと自分で立ち上がることができません。
しかし、中脳を残した中脳動物では除脳固縮を示さず、随意運動をできないにも関わらず自分で立ち上がることができます。
これを立ち直り反射と言います。

※①、②の姿勢反射は除脳動物で顕著に観察されます。=延髄及び橋で統合されています。

 

(4)歩行リズムの調節

歩行のリズムは、中脳歩行野からの支配を受けます。
また中脳以外にも橋や視床下部からも調節を受けます。さらに他の運動同様に、大脳から指令を受けて随意的に調節も可能です。

 

c.小脳による調節

小脳は随意運動の協調、姿勢保持に必要な筋緊張を支配します。
さらに熟練した運動の記憶と学習にも関与します。

小脳には表面を覆う灰白質でできた小脳皮質と、白質でできた髄質、その深部に小脳核があります。
※小脳核:歯状核、栓状核、球状核、室頂核

小脳は主に、速い運動の意図とその運動の調節、運動と姿勢の調和などに関与すると考えられています。
小脳が障害されると姿勢の維持が困難になります。

〜小脳障害〜

・推尺異常:随意運動の範囲を誤る
・企図振戦:随意運動を始めると手に震えが起こる
・筋緊張低下
・運動解離:指指テスト、指鼻テスト陽性
・拮抗筋の相互協調不全

 

d.大脳基底核による調節

大脳基底核とは、大脳半球の深部にある大きな核で、線条体(尾状核、被殻)淡蒼球を含みます。さらに、これらと密接な関係である間脳の視床下核と中脳の黒質を含めて考えることもあります。

大脳基底核は大脳皮質や視床と神経回路を形成しています。
機能としては、運動の発現・円滑な運動の遂行、姿勢の制御に関与します。

大脳基底核のうち…
線条体が大脳皮質からの入力部
淡蒼球と黒質が視床を介して大脳皮質への出力部
として働きます。

 

〜パーキンソン病〜

大脳基底核の障害によって起こる代表的な疾患です。
別名:筋緊張亢進運動減少症候群

特徴
・振戦:安静時に体の各部が不随意に振動し、精神的緊張で増加します。
・固縮:全身でγ固縮が亢進します。
・寡動:動作の開始が遅れ、動作自体も緩慢になります。仮面様顔貌。
・姿勢保持障害:特有の前屈姿勢を示します。

 

e.大脳皮質による調節

(1)運動野

運動野は一次運動野とも呼ばれ、前頭葉の中心前回にあります。

一次運動野の一側のニューロンは主に反対側の体の運動を支配します。
ただし、顔面の筋を支配する一次運動野のニューロンは両側性に支配しています。

〜運動野の障害〜

一次運動野が破壊されると、破壊直後には反対側の支配筋に弛緩麻痺が起こり、時間が経つにつれて腱反射のような深部反射は回復して、痙性麻痺に変化することがあります。

〜運動円柱〜

運動野において、手指のそれぞれの筋肉を動かすニューロンは非常に狭い円柱状の領域にまとまっているので、これを「運動円柱」と言います。
一次運動野(中心前回)の深層にベッツの巨大錐体細胞というのがあって、このニューロンの軸索は脊髄へ直達性に下行して皮質脊髄路を形成します。

 

 

(2)運動前野と補足運動野

一次運動野の近くにある連合野、特に運動前野補足運動野と言われる部分は、個々の運動の統合や運動の準備過程などに関与します。

 

(3)運動の調節

運動の調節には、
運動野、運動前野、補足運動野に加えて
大脳基底核、小脳、視床、脳幹、脊髄
も重要です。

連合野で運動の計画が立てられると、
その計画が大脳基底核に送られて運動を行うためのプログラムが作られます。
そのプログラムに沿って、運動野のニューロンが運動の指令を出します。

〜運動準備電位〜

随意運動の準備状態を反映するものと考えられています。
運動が始まる約1秒前から脳波が緩やかに増大していきます。
運動準備電位は頭頂部を中心として脳の比較的広い部分から記録されます。