臨床医学総論

臨床医学総論 第6章 神経系の診察

1.感覚検査法

  • 表在性感覚:触覚、痛覚、温度覚
  • 深部感覚:関節覚、振動覚、深部痛覚
  • 複合感覚:二点識別覚、皮膚書字覚、立体覚
  • 温痛覚=「外側脊髄視床路」
  • 粗大触覚=「前脊髄視床路」
  • 繊細な触覚、圧覚、振動覚=「後索路」
  • 固有感覚=「前・後脊髄小脳路」

2.反射検査

大脳皮質を介さない不随意反射

1)表在性反射

  • 腹壁反射
  • 睾丸挙筋反射
  • 足底反射
  • 肛門反射

2)深部反射

  • 眼輪筋反射
  • 下顎反射
  • 二頭筋反射
  • 三頭筋反射
  • 橈骨反射
  • 尺骨反射
  • 膝蓋腱反射
  • アキレス腱反射

3)自律神経反射

  • 対光反射
  • 輻輳反射
  • アシュネル反射
  • 頸動脈洞反射

 

4)病的反射

錐体路障害で下位運動ニューロンへの抑制減少のために出現する異常反射

上肢の病的反射
  • ホフマン反射
  • トレムナー反射
  • ワルテンベルグ反射
下肢の病的反射
  • バビンスキー反射
  • チャドック反射
  • オッペンハイム反射
  • ゴードン反射
  • 足クローヌス
  • 膝クローヌス

原始反射

新生児期だけにみられ、発達するとともに消失していく反射

  • モロー反射
  • 吸引反射
  • 把握反射

 

3.脳神経系の検査

1)脳神経

左右12対からなる。

1.嗅神経

嗅覚をつかさどる感覚神経

2.視神経

視覚をつかさどる感覚神経

3.動眼神経、滑車神経、外転神経

眼瞼、眼球の運動をつかさどる神経
動眼神経:上直筋、下直筋、内側直筋、下斜筋
滑車神経:上斜筋
外転神経:外側直筋

4.三叉神経

眼神経(V1):前額、鼻翼上部、膈膜
上顎神経(V2):頸部、上唇
下顎神経(V3):オトガイ、下唇、舌前2/3、咀嚼筋の運動

角膜反射
〈原因〉

眼神経麻痺

下顎が患側に偏位する
〈原因〉

下顎神経麻痺

5.顔面神経

  • 顔面諸筋の運動
  • 舌前2/3の味覚
  • 涙腺
  • 唾液腺
  • 広頚神経
  • 額:前頭筋麻痺=シワをよせられない
  • 眼:眼輪筋麻痺=閉眼不能、兎眼、ベル現象
  • 鼻:鼻尖が健側に引かれ、鼻唇溝が浅くなるか消失
  • 口:口角は下がり(口角下垂)健側へ引かれる。患側の閉口不全

6.内耳神経

蝸牛神経:聴覚をつかさどる

前庭神経:平衡感覚をつかさどる

7.舌咽神経、迷走神経

  • 口蓋ー喉頭の機能に関与。迷走神経片側麻痺で口蓋垂が健側へ偏位。両側性では挙上しない。
  • 咽頭・嚥下反射の消失:咽頭壁の知覚脱出。
  • 軟口蓋麻痺(迷走神経麻痺)⇒鼻声
  • 声帯筋麻痺(反回神経麻痺)⇒嗄声

8.副神経

胸鎖乳突筋、僧帽筋を支配する運動神経

9.舌下神経

舌筋を支配

両側性麻痺では舌を出すことが困難

片側麻痺時は舌を出させると麻痺側へ偏位

 

2)対光反射

3)輻輳反射

絶対性瞳孔硬直

対光反射と輻輳反射の両者の消失

〈原因〉

虹彩炎、脳血管障害、脳腫瘍

 

アーガイルロバートソン徴候

対光反射消失にも関わらず、輻輳反射が保たれているもの

〈原因〉

神経梅毒、脊髄癆、進行性麻痺

 

4)聴覚検査

リンネ検査

乳様突起→外耳道

健常者⇒音が聞こえる
外耳・中耳疾患⇒音が聞こえなくなる
蝸牛神経障害⇒どちらでも聞こえない

ウェーバー検査

頭頂部に音叉を置く

片側の伝音難聴⇒患側のほうが大きく聞こえる

片側の感音難聴⇒健側のほうが大きく聞こえる

 

4.髄膜刺激症状の検査

  • 項部硬直
  • ケルニッヒ徴候
  • ブルジンスキー徴候
  • ラセーグ徴候

5.運動機能検査

1.運動麻痺

1)運動麻痺の分類

単麻痺 上肢、下肢、顔面が単独に運動麻痺を起こすもの
片麻痺 身体の一側半身の麻痺(例、脳血管障害、脳腫瘍)
対麻痺 対称性に両側の上肢or下肢に麻痺があるもの
四肢麻痺 両側上下肢の麻痺(例、頸髄膨大部より上での脊髄損傷)

 

2)障害部位による障害の特徴

上位運動ニューロン障害(錐体路系障害)
下位運動ニューロン障害(末梢神経障害) 腱反射の減弱or消失(深部反射)、筋萎縮
錐体外路障害
神経筋接合部障害 重症筋無力症(アセチルコリンの代謝障害)
筋肉の障害

 

2.筋肉の異常

筋萎縮

長時間使用しない筋肉は萎縮してくる=廃用性萎縮

 

筋萎縮分布の特徴
四肢全域 多発性筋炎、多発性神経炎、筋強直性ジストロフィー
四肢遠位 脊髄性進行性筋萎縮症
四肢近位 進行性筋ジストロフィー(デュシェンヌ型、肢帯型)
分散型 脊髄腫瘍、脊髄空洞症、末梢神経損傷、椎間板ヘルニア
特異的局在型 進行性筋ジストロフィー(顔面肩甲上腕型)

 

仮性肥大

腓腹部に好発。

筋ジストロフィーでは、他の筋は萎縮するのに一部の筋肉が肥大する。これは脂肪組織によって肥大するためで、ゴム様の弾性を示し、筋力は低下する。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーに特徴的。

 

筋トーヌスの異常

筋肉を充分に弛緩させた状態でも、筋肉が不随意に収縮した状態を筋トーヌスという。

筋トーヌス亢進
  • 痙直:他運動に対し、最初は抵抗が強いがあるところまで動かすと急に抵抗が抜ける状態。(折りたたみナイフ現象、錐体路障害
  • 固縮:屈筋、心筋の両方が障害され、他動運動に対し最初から最後まで抵抗がある状態。(鉛管現象、錐体外路障害
筋トーヌス低下

他動運動に対し抵抗がなく弛緩している状態。(振り子様運動、小脳疾患、片麻痺初期、脊髄癆)

 

3.不随意運動

舞踏病様運動 不規則で目的のない非対称性の迅速で多様性の運動。筋緊張は低下(例、舞踏病)
アテトーゼ 指が虫がはうようにくねらせる。
バリスムス 四肢を投げ出すような粗大運動(例、視床下核の血管障害)
ジストニー 体部の捻転と回転が絶えず不規則に起こる
ミオクローヌス 一部の筋肉が突発的にすばやく収縮するもの
チック 突発的、反復性かつ比率動性で顔面に最も多くみられる

 

振戦

静止時振戦 静止時のみ著名
企図振戦 随意運動時にのみ著名な振戦を示すもの(例、多発性硬化症、小脳疾患)
はばたき振戦 手指、前腕、上腕が不規則に屈曲し鳥が羽ばたくようにみえる振戦(例、肝性昏睡
パーキンソン性振戦 粗大な静止時振戦「丸薬丸め様運動
甲状腺機能亢進性振戦 微細で迅速な振戦。精神緊張により増強。

 

4.協調運動、5.起立と歩行

指−鼻指試験 示指を患者自身の鼻を触り、ついで示指で検者の示指に触る。
踵−膝試験
拮抗運動反復テスト
書字試験 小脳失調性では「大字症」、パーキンソン病では「小字症
つま先歩行 運動失調ではつま先歩行不可。
踵歩行 運動失調では踵歩行不可。脛骨神経麻痺で踵歩行
ロンベルグ徴候
(閉眼起立試験)
開眼で両足爪先をそろえて立たせる。脊髄性失調では閉眼で同様が著名になる
登はん性起立 床から起立時に膝に手をつき自分の身体をよじ登るようにする。(例、筋ジストロフィー)
バレー徴候